夏に走る
僕は夏に走るのが一番好きです。暖かい季節こそ、距離を積む好機。休暇で旅に出て、初めての土地も走れます。使える道が増え、ルートはいくらでも組めます。
朝は早く明るくなります。日差しのある、まだ人のいない道や川沿いを走ると、街が丸ごと自分のものになった気分です。昼に30℃になるなら、気持ちよく走れるのは朝6時ごろ。朝の涼しさを逃すと、暑さの中を走ることになります。
暑い中のランは、厳しいものです。終わってシャツを本当に絞ったことも、一度ではありません。普段は水のボトルを手に走ることはほとんどありませんが、必要な日もあります。昼ならサングラスと帽子も要る。気温にも、水分が足りているかにも気を配らなくてはいけません。
夏はよく日に焼けます。海沿いでシャツを脱いで走ると、往路で片側、復路で反対側。都合よく焼けるのですが、焼きすぎないために日焼け止めを使いたい。日差しの下を2時間も進むなら、なおさらです。
夏にも大会はあります。少しでも涼しくなるよう、日陰を探し、道の日陰になっている側へ寄って走ります。
夏は、走るのにうってつけです。
一週間の練習
アプリには、いろいろな統計があります。簡単で重要なのが、走った距離。一回の練習はもちろん、今月、今週、今年、そのほかの期間に、どれだけ走ったかを教えてくれます。
最初は月間の数字だけを見て、100〜150kmなら十分だと思っていました。NRCも、初めに表示するのは月の結果です。
それまでの年にも、調子のいい月には200kmを超えたことが何度かありました。でも、きつかった記憶があります。何かを追いかけていたわけでもないので、再びやろうとはしませんでした。
ところが、よい記録でマラソンを走るには週80km、という記事を読みました。月120〜150kmなら、週の平均は30〜40kmほど。記事の数字の半分くらいです。もっと練習する余地があるらしい。
走り始めて半年、週80kmを目指してみることにしました。
毎日走るなら、7日間、平均11kmと少しです。77〜80kmになる。半年続けたあとなら、11kmはもう怖くありません。一日1時間余りで、予定にもそれほど響かない。
走る日を減らすなら、一回を長くしなくてはなりません。週5回なら16kmずつ。こちらのほうが大変です。
一回11kmほどに延ばしてみると、最初から走り切れました。もっとも、その前に半年、毎日練習しています。楽な日も、少し厳しい日もあったけれど、とにかく回数は多い。偶然できたのではありません。負荷が一段上がり、目標への階段をもう一つ上った、という感覚でした。
僕にとって週80kmは、すべてを変える魔法の数字でした。走り方が変わり、体も目に見えて変わり始めたのです。
80kmの向こうで起きた変化
週80kmは、それなりの量です。体にも適応が必要になります。僕は、数か月続けるうちに、別人のように感じるほど変わりました。
驚いたことに、体のにおいも変わりました。当時は、都会暮らしでためた不要なものが、連日のランで出ていくのだろう、代謝が上がって体がきれいになるのだろう、と考えました。あくまで僕の実感と想像で、何かを測って原因を確かめたわけではありません。
5kmや10km走ったあとの喉の渇きも、僕には普通に1時間話したあとくらいに感じられました。水分を失ったから補う必要がある、と頭でわかる。でも、以前のように体が叫んでいる感じではありません。
年の初めから体重はかなり落ちていましたが、週80kmを走るようになると、皮下脂肪も少なくなりました。腕や脚、ふくらはぎの血管が、はっきり見えるようになりました。
鏡を見ても、自分を見ているとは思えない。新しい体を渡されたようでした。週80kmで、僕の景色は変わったのです。
そうして2か月続けたあと、8月の終わりにニジニ・ノヴゴロドで開かれるマラソンに申し込みました。
いろいろな練習
いつも同じ道、同じ起伏、同じ速さで走っていると、やがて体が慣れ、変化が見えなくなります。そこから先へ進めない気がして、飽きてしまう。僕には、変化が必要でした。
道と距離を変える。平地、丘、上り、下りを選ぶ。速くも、遅くも走る。きっちりした計画を立てていなくても、違う負荷に出会えば、体はその違いに対応しようとします。
さらに、今日は何をしたいのかを考えるなら、次のような練習があります。それぞれを詳しく語れば長くなり、細かな違いもたくさんある。ここでは、ひとまず短く紹介します。
ロング走
名前のとおり、長い距離を走り、少しずつ延ばしていく練習です。僕が読んだ市民ランナー向けの説明では、練習で35km以上走ることは勧めていませんでした。フルの距離は、それ自体が立派な本番です。ときどき25〜30kmまで行ければ十分、と考えていました。普段の短いランより、ゆっくりしたペースで走ります。
最初はゆっくりしたペースでウォームアップし、終わりもクールダウンして、筋肉と心拍を徐々に落ち着かせます。持久力を育てる練習だと、感覚的にもよくわかります。
スピードのインターバル
短い速い区間を入れる練習です。まず5〜15分、心拍を抑えて軽く走り、準備をする。その後、短時間、速く走り、軽いジョグへ戻って呼吸と心拍を整える。それを繰り返します。
例えば、速い区間を2分、軽いジョグを1〜2分。また2分速く、1〜2分ゆっくり。止まらずにつなぎます。計画と体調に応じ、5回、7回、10回と繰り返します。
強い負荷で、速さや無酸素性の力を鍛える練習です。僕は、週1回までという目安で考えていました。
テンポ走
ロング走より短い一方、目標のペースを、一定の時間保ちます。ある区間は普段の楽なペースで、別の区間は速いペースで。短く速く走ってすぐ回復へ入るインターバルと違い、速い区間を、より長く止まらずに続けます。そのあとにペースを落とし、最後はクールダウンします。
例えば7kmなら、最初と最後の1kmをゆっくり、その間の5kmを目標の速いペースで。15kmなら、アップのあと、普段のペースで2km、速く3km、また普通に2km、速く3km。残りは安定したペースで戻る、といった組み方です。
高めの強度を保つ力を育て、速さと持久力の両方につなげる練習です。乳酸の増えるような負荷に対応する力も、その一部です。
後半に上げる走り
基本は、30〜40分、あるいは1時間ほど安定して走り、その後でペースを上げます。すでに走ったあとでも加速できる力を育てる。疲れた筋肉でも、もう一段の働きを引き出す練習です。
初心者なら、最初の2kmより3km目を少し速くするところから考えられます。少し疲れたあとでも上げるのが狙いです。普段は逆でしょう。元気に出て、疲れ、だんだん遅くなる。その癖を変えたいのです。
慣れれば距離が増え、疲れるまでの時間も長くなります。それは、わくわくする変化です。
僕の経験では、前半が上り気味、後半が下り気味のルートが向いていました。前半をゆっくり進み、後半に気持ちよく速くなる。疲れたあとにも速く動ける感覚を、体が覚えていくのです。
ファルトレク
スウェーデン語で「スピードの遊び」。戦前のスウェーデンで生まれた方法です。軽い負荷と高い負荷を行き来し、負荷の変化に体が対応できるようにする練習です。
森の土の道など、起伏のある場所で行うことが多い。地形に合わせ、自然に速くしたり遅くしたりします。上りや下りでスピードを変える練習にもなります。
もちろんトラックや舗装路でも、速さの遊びはできます。高い負荷の区間と、回復のジョグを交互に入れる。長さがきっちりそろわないところも魅力です。ただしきついので、僕のような市民ランナーなら、週1回までと考えていました。
組み合わせる練習
一回のランに、いくつかの走りを組み合わせることもあります。
例えば、アップ、インターバル、目標ペースの区間、テンポ走、ダウン。またはアップ、テンポ走、短い回復のジョグ、その後インターバル、最後にダウン、という具合です。
市民ランナーには難しい練習ですが、ときには試すこともできます。ファルトレクと違い、こちらは内容と区間を、あらかじめ決めておきます。
軽い回復ジョグ
ゆっくりした一定のペースで、心拍を抑えて走ります。余計にエネルギーを使い切らないランです。
練習へ入るときにも、きつい練習やレースのあとにも使います。僕には、ただソファで横になるより、軽く体を動かして感覚を保つのが合うことがありました。
見かけほど「意味のない距離」ではありません。走る力を蓄える、大切な練習です。ラン円をためる時間。たくさん、ためておきたいのです。
待ったをかける条件
走り始めて半年もたっていない、あるいは週40kmにも届かないなら、最も強度の高い練習を急いで始めない。僕はそう考えていました。まず量と土台を作り、週50km以上になったところで考える。それまでは、楽なランや無理のないロング走を中心にするだけでも十分です。数字を満たせば何でも安全、という意味ではありません。
ランニングウォッチ
ランナー向けの電子機器はいろいろありますが、僕が一番大切だと思うのはスポーツウォッチです。僕はGarmin。Suunto、Polar、Xiaomi、Samsung Gear、Apple Watchなど、ほかにもよいものがあります。レビューや比較記事も多い。靴と同じで、好みで選べばいいのです。
役目は、一緒に走り、感覚だけではわからない練習の様子を数字で見せてくれること。感覚は、ときどき外れます。楽に走っているつもりでも、心拍は上がっている。速いつもりでも、先週より遅い。僕は主観だけでなく、時計の数字も頼りにします。
ペースと心拍以外にも、いろいろ測れます。睡眠、歩数、ピッチ、コースの起伏を見るのが好きです。朝、「実際のところ」どれだけ休めたのかとGarmin Connectを開く。走っているときは、心拍ゾーンを確認します。
普通の時計は、装い、品格、自分らしさのために選びます。服や場に合わせる。でもスポーツウォッチは、一日じゅうデータを集めたいので、ずっとつける。昼も夜も外したくなくなり、自分の一部になります。不思議なことに、ほかの時計を暮らしから押し出し、最後にはこれ一本だけが残る。予想外の変身でした。
大会に出る理由
プロや経験豊富な人には、僕の意見など要らないでしょう。理由は、とっくに自分で知っているはずです。でもまだ大会に出ていないなら、伝えたい。いいですよ。本当に、いいものです。
ドラマ『ヴァイキング』を見て、隊列を組んで戦いを待つ人たちの、恐怖と高揚が混じる感じが、妙に身近に思えたことがあります。敵を見られるのは最前列だけ。後ろの人は仲間の背中と、前方のざわめきしか知りません。道具を確認し、列に入り、始まりを待つ。体は裏切らないか。筋肉はつらないか。耐えられるか。やがて声を上げ、集団が進み始める。先には試練があり、自分の運命は自分で動かす。力と運を試しにいくのです。しかも北欧の気候は厳しい。寒くて、じめじめしていて、雨も降る。暖かい格好をしたいけれど、動きやすさを考えると着込みすぎられない。
マラソンのDブロックで待っていて、似た感覚になりました。カウントダウン。沿道の声。ランナーがそろって秒を数え、僕も声を合わせます。大きな集団がゆっくり、やがて速く動き出す。スタートラインが見え、それを越える。あとは、自分の力で進むだけ。走って、何ができるかを見せる。着けたなら、フィニッシュがその答えを教えてくれます。初めての大きなスタートでは、『千と千尋の神隠し』の千尋みたいな気持ちにもなりました。知らない世界の入口で足がすくむ。でも、ここから先は、自分で一歩出すしかない。
アプリなら、一時停止して靴ひもを結べます。一時停止して、道沿いのカフェのトイレへ行く。水を飲む。でも大会の時計は止まりません。失った秒は、すべて自分のタイムに加算される。信号待ちや車を先に通すのを口実に、こっそり息を整えることもできない。ごまかしがきかない。全力で走った結果が、そのままタイムになるのです。
普段の練習で、毎回すべてを出し切る必要はありません。僕が力を尽くしたいのは、目標の大会です。暮らしの短い一部分だけ、別のモードになる。練習は、本番に備えるためにある。本番は、未来の成功の下書きではありません。ちゃんと準備できたか、自分の体を感じて扱えているか、進歩したか、楽なときでなく限界に近いところで何ができるか。現実の答えを確かめる時間です。
その日を待ち、準備をし、ついに始まる。いいものです。本当に。
友達と走る
初めて10km走った日は覚えていません。でも、初めてのハーフはよく覚えています。途中で投げ出すのではと怖かった。公園を何周するか考え、ベンチの裏に水のボトルを隠し、一周してはベンチに座って休みました。つらく、健康のためとしては賢いやり方ではなかった。遅く、何度も止まり、最後は走るより歩いて、ようやくゴールまでたどり着きました。2時間40分。その記録を、しばらくとても誇っていました。
それでも、自信はつきました。心の壁が崩れ、恐怖が引いた。苦しく遅くても、救急車や帰りのタクシーなしで、この距離を終えられる。それを知ったのです。
自分の最初の10kmは忘れても、友人を初めての10kmへ、手を取るように連れ出したときは覚えています。ある友人は、ジムのトレッドミルなら5km、8kmを走っていました。体はできていたけれど、川沿いの10kmを一人で走る決心がつかず、同行を望みました。ジムなら、いつでも止まれる。水もあり、スタッフも見ている。温室のような条件です。公園は現実の世界。最後まで力がもつか、わからないのです。
川沿いの公園へ行き、車のそばで靴を替え、走り始めました。気持ちのいい遊歩道、たくさんのランナー、いい天気。これで、うまくいかないわけがありません。僕は励ましながら、一緒に先へ進みました。彼は疲れ、汗びっしょりになったけれど、誇らしげでした。心の壁はぱきりと割れ、崩れ落ちました。
一年後、彼はフルを走り、やがてトライアスロンへ。アイアンマンを完走し、南アフリカのウルトラマラソンまで走りました。見事です。その歩みを、ほんの少しでも後押しできたことを、誇りに思います。
走るのは、とても個人的なスポーツです。それでも道でランナー同士が会えば、手を上げて挨拶する。そんな応援が、このスポーツの文化の大事な一部だと思います。
二日続けて走る練習
僕は一つ仮説を立てました。一日に10〜11km、翌日も同じ距離を走れば、二日間の合計はハーフに近い距離になります。間には長い休みがあるけれど、筋肉は合計の距離に慣れ、やがて一度につなげる負荷への準備になるのではないか、と。
21kmのために11kmを2回なら、一回あたりの負担も、それほど大きくない。では、ハーフを二日続ければ、フルへの準備になるのでは。
何度か試し、役に立ったのではと思っています。特にうれしかったのは、二日目のハーフも一日目に劣らない速さで走れたこと。それなら本番の後半にも対応できるのでは、と励まされました。
ただし6月、ハーフを二日続けたあと、軽いけがをしました。直後ではありませんが、負荷の増加と関係があったと思います。数日後のランで、3kmほどのところで脚がつり、足を引きずりながらタクシーを呼びました。急に増やしすぎたのでしょう。数日は2〜3kmだけに抑え、回復しました。